浅山を行く人々
浅山を行く人々 ―― 道にまつわるいくつもの進行形
複数の県や市の僻地を跨ぎながら南北に走る内山公路――台3線。この省道が通過する台湾北西部の山麓地帯は、かつては平地先住民のタオカス族やパゼッヘ族、また山地先住民のサイシャット族やタイヤル族の居住地でした。しかし、漢民族の入植により移民人口が増えていくと、土地や生活に起因した衝突が頻発するようになり、一帯には各種族を隔てる境界線が形成されていきました。人の歩むかたちによって絶えず変化する「道」。初期の先住民狩人の小径、客家の先人が奥山開墾のために切り開いた要路、商人必経の行商路、世界の山林経済を支えた貿易網、日本統治時代の軍事要路、集落間を繋ぐ嫁入りの想い出道、はたまた農民紛争の逃走経路など、異なる時空に生きた人々の道は時に交わり、時に平行しながら、まったく異なるかたちで各々の時代の意志を貫きました。
「浅山」とは平原と接した低海抜地帯の丘陵や谷のある地理的環境であり、海抜800メートル以下の人類が到達しやすい地域を指します。そのため原生的な自然、人手が入った半自然、人工的な居住地が入り交じり、その独特な生態環境は何にも代えがたい生物の多様性を育んでいます。「浅山」は地理的な空間に留まるものでも、海抜高度に制限されるものでもありません。本展覧はこの「浅山」をコンセプトに、辺地を流動する能動的な力にフォーカスし、「多様性」と「内に秘めた異質性」に軸を置くことで他者や自然に目を向け、人と自然を生命共同体とした実践により、種族が交わる辺縁地帯に多方面からのアプローチを試みます。
展覧は「浅山を行く人々」と題し、「内山」(台湾西部の各県や市の山間部や丘陵地帯)の地理的特色と客家集落の日常を投映するほか、台3線上で繰り広げられてきた多様な種族の交わり、移動文化という流動的な特性をもとに、浅山の辺縁でさまざまに繰り返されてきた人々の動きこそが、台3線の複雑且つ豊かな生命史を織り成すものであったことを伝えます。また、「浅山の生態」、「交わる種族」、「流動の記憶」、「世界の小径」などの各章を通じ、台3線の知られざる多層的なストーリーを展開していきながら、その深層にある差異を社会学的な観点から切り込みます。そして台3線にまつわる複数の歴史、隠れた客家の現代性、古今の逸事、生態系との依存関係を探り、地元住民や芸術家、各分野の専門家、参加者が共に台3線への理解をより立体的にしていくのです。
人々が移動と離散を繰り返し、根を下ろしていく過程の中で、歴史が多層に重なり合う道が築かれてゆきました。浅山を行く人々は、過去の衝突が残した困窮と和解、自然万物との共生、他者の中に自己を見つめることを学び、そしてその歴史を携え前に進まんとする「私たち」がいます。ロマンチック台3線では、何処から来ようとも、あなたも私も同じ道を歩んでいるのです。
キーワード:浅山が持つ特性、複数の歴史、文化の多様性、自然との共生、離合集散、移り変わる風景
PLANNING TEAM グループ
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總策展人 エヴァ・リン
「山冶計画」(mt.project)アートディレクター。最近のプロジェクトには「ダメージコントロール」(2017年)、「”隠れた南“アートプロジェクト」(2018年)、「来るべき過去」(2019年)、「池田亮司展」(2019年)、「第7回台湾国際ビデオアート展2020 ANIMA」、「台北ビエンナーレ 2020-21:あなたと私は違う星に住んでいる」(Bruno LatourとMartin Guinard-Terrinと共同企画)、「馬祖列島ビエンナーレ2022/地下物質」など。
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國際策展人 港千尋
写真家 著述家 多摩美術大学教授 芸術デザイン人類学研究所所長 イメージの発生と記憶などをテーマに作品制作、展覧会、国際展キュレーションと広範な活動をつづけている。ヴェネチア・ビエンナーレ2007日本館コミッショナー、あいちトリエンナーレ2016芸術監督などを歴任。写真集に『文字の母たち』(インスクリプト)『掌の縄文』(羽鳥書店)、著書に『革命のつくり方』(インスクリプト)『インフラグラム』(講談社選書メチエ)など多数。『風景論ー変貌する地球と日本の記憶』(中央公論新社)で2019年度日本写真協会賞受賞。最新刊に『写真論』(中央公論新社 2022年)『武満徹、世界の・札幌の』(共著 インスクリプト 2022年)、写真集に『Across The Waters』(ABI+ P3パブリッシング 2022年)などがある。
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協同策展人 シン・フォン
台湾ボイスアート、ニューメディアアートとコンテンポラリーカルチャーについて関心を持つ。最近のプロジェクトには、「An Uncharted World」(2021年)、「オフラインリアリティ」(2022年)、「廃墟に閉じ込められ」(2022年)、「Recapturing the Past: An Exhibition of the Film and Audiovisual History of Taiwan」(2022年)など。台北市立美術館季刊「現代美術」、「Artco Monthly & Investment」、「ARTouch」、「CLABO」などにおいて文章を発表。
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協同策展人 ティン ・ゾウ
ドイツライプツィヒ美術アカデミー大学院修士号を取得、現在、博士課程に在籍。ナショナルカルチャーや展覧会の歴史とその関わる学際的な現象や現代性、リサーチに集中。最近のプロジェクトには、「Housing Things」(2021年)、「禁山14号」(2022年)、「他人の土地で自分の歌を唄う方法」(2022)、「The Whole Life: An Archive Project」(2019-22年)、「Floating System for Snails: Project Invasion」(ドクメンタ15, 2022年)など。